様々な股関節疾患による痛みや機能障害に対して、X線像や血液検査、またCTやMRIなどを用いて病態を十分に評価し、的確に診断します。
手術療法においては、できるだけ股関節を温存する手術を考慮し、必要に応じて人工股関節置換術を行っています。
以下に主な疾患と手術療法について紹介します。
主な疾患
主に若年者やスポーツ選手に多い疾患です。他にも未成年者に多い離断性骨軟骨炎や膝蓋骨脱臼、軟骨損傷など、幅広く診断や治療を行っています。
変形性股関節症
まだ定義や診断基準が定まっていない疾患の1つですが、病態の中心は関節軟骨の変性と消失であり、それに伴い関節唇障害、滑膜炎と骨の変形が生じます。本邦の有病率は1.0~4.0%で、女性の方が高いです。原因が特定できない一次性と特定できる二次性に分類されますが、本邦では寛骨臼形成不全を基盤とする二次性股関節症が多く、約80%に及ぶとされています。発症時期は40歳代から60歳代で多く、両側罹患も少なくありません。硬化骨、骨棘の増生や骨嚢胞が形成される肥大型に比較して、萎縮型は関節症の進行が早いです。病期の進行に伴い、股関節痛と可動域制限が生じます。
寛骨臼形成不全
寛骨臼の近位部は荷重を主に支える域で臼蓋とも呼ばれ、主に腸骨から形成されます。大腿骨頭を被覆する主に臼蓋部分の成長が十分でないと、寛骨臼は浅く、関節面は急峻となります。寛骨臼形成不全は頭側だけでなく、しばしば前方あるいは後方の形成不全を伴います。前捻角や頚部長など大腿骨近位部の変形も伴うことが多いです。本邦における本疾患の頻度は欧米に比較して高く、特に女性に多い特徴を有します。大腿骨頭荷重部で寛骨臼の被覆が不良で、過剰なストレスが軟骨にかかり、変性摩耗が惹起されるため、変形性股関節症の発症のリスクファクターになります。
大腿骨頭壊死症
大腿骨頭の栄養血管である内側大腿回旋動脈の血流が障害され、大腿骨頭に骨壊死が生じる病態です。外傷など壊死の原因の明らかな症候性大腿骨頭壊死症とそうでない特発性大腿骨頭壊死症に分類されます。後者はステロイド薬による治療歴や習慣性飲酒のある患者に多いです。骨頭壊死の発生だけでは疼痛は出現せず、荷重により壊死骨が圧潰し、骨梁骨折や骨髄浮腫で発症します。大腿骨頭の圧潰は関節軟骨の障害を導き、変形性股関節症の変化を呈するようになります。荷重部においての壊死域の大きさは疾患の予後を決定する重要な因子で、単純X線像、MRIなどで評価されます。治療は、主に年齢、病期と壊死域によって決定され、骨切りや人工関節置換術などが行われます。
大腿骨寛骨臼インピンジメント
大腿骨寛骨臼インピンジメントは寛骨臼側、大腿骨側における軽度の形態異常によって、股関節運動時に繰り返しインピンジメント(衝突)が生じることにより、寛骨臼縁の関節唇および軟骨に損傷が惹起される病態とされます。スポーツ障害の一因としても注目されています。寛骨臼縁あるいは大腿骨頭頚部移行部の特徴的な画像所見のみでなく、臨床所見も含めて評価する必要があります。
主な手術方法
主に若年者やスポーツ選手に多い疾患です。他にも未成年者に多い離断性骨軟骨炎や膝蓋骨脱臼、軟骨損傷など、幅広く診断や治療を行っています。
寛骨臼回転骨切り術・寛骨臼移動術
寛骨臼形成不全に伴う二次性の変形性股関節症に対して、寛骨臼を含む骨片を前外側に移動させ、大腿骨頭の被覆を増加させる術式です。移動骨片には関節軟骨も含まれるため、関節軟骨が骨頭荷重部を被覆する生理的な矯正手術になり得ます。健常な軟骨が残存する前・初期股関節症に対する治療成績は良好で、広く普及しています。正常な荷重条件となり、関節症の進行を予防し、関節を温存することになります。
大腿骨頭回転骨切術、大腿骨彎曲内反骨切術
主に大腿骨頭壊死症に対して行う術式で、大腿骨頭に健常(正常骨)域が残っている場合は、大腿骨頭回転骨切り術や大腿骨弯曲内反骨切り術を行います。この手術は大腿骨の近位部で骨切りを行い、壊死していない正常な骨を荷重部に移動させる手術です。大腿骨頭の圧潰と関節症の進行を予防し、関節を温存することができます。
人工股関節全置換術(THA)
3Dテンプレートにシミュレーション
Navigation systemの画面
THAは股関節疾患の末期像に対して行われる手術法で、関節面の不良な部分を除去し、人工関節に置き換える術式です。寛骨臼側の人工関節はカップまたはソケット、大腿骨の方をステムと呼びます。骨と人工関節の描着には骨セメントを使用する場合としない場合があり、後者をセメントレスと言い、当科の初回THAは大部分を占めます。摺動面における摩耗を減少させるため、ポリエチレン、セラミックや金属などの材料が改良されています。THAにおいては正確なカップやステムの設置が重要ですが、当科では3Dテンプレートによるコンピュータシミュレーションの術前計画と術中にはNavigation systemをすべての手術に使用し、精度を挙げています。
人工股関節再置換術
骨欠損部には同種骨が移植されています。
人工股関節は術後易脱臼性、周囲骨折、骨溶解やゆるみなどの理由から、以前の人工関節を抜去し、新たな人工股関節を設置する再置換術が行われます。初回手術よりも技術的に難しいですが、初回手術と同様、3Dテンプレートによるコンピュータシミュレーションの術前計画と術中にはNavigation systemをすべての手術に使用し、精度を挙げています。骨欠損が生じていることも少なくなく、十分な骨移植を併用しながら、時には補強器具も使用し、股関節を再建しています。